2017年度5月13日 学習会

読書のためのアニマシオン

・アニマシオンとは魂を動かす、というような意味でしょうか。文字は読めるし文章も理解できているけれど、本という形式のものを読もうとしない児童生徒がいます。そういう子どもたちが、本を深く理解することを助けるグループ活動です。

 

・スペインのM.M.サルトが開発した、楽しんで自発的に読書することができるようになるための方法で、本を使った遊びと定義されています。

 

・作戦と呼ぶ、質問と答えの形式がたくさんあります。

「ここだよ」とか「前かな後かな」とか「どうして?」などの名前がついています。

 

・その作戦に応じて具体的にどのような本を用いてどういう質問をするか、という参考書もいくつか出ています。日本で出版されている本を使った参考書等を最後に記載しました。

 

・今回の学習会では、ターシャ・チューダーの『すばらしい季節』(現代企画室 版)を用いました。

 

・参加者の人数分の本を準備し、その場で読む時間をとります。教室や会議机などをそのまま利用するのではなくちょっといつもと違ってくつろぐ環境作りが大切ということなので、椅子だけを楕円形に並べて配置しました。ゆっくり座れるようにひざ掛けを準備するのも大事だと思います。

 

・作戦は「何てたくさんのものがあるのでしょう」を用いました。これは質問カードを人数分用意します。本を読み終わって回収したら、質問カードを配ります。各人にどのような質問を配ったか、あらかじめ手元にメモを作っておくといいでしょう。カードの質問は手にした人が答えますが、ほかに気づいた人がいれば、答えてもらいます。児童生徒を対象とするときには、特定の参加者ばかりが発言しないように、気配りします。質問には正解が求められるのではなく、質問によって今読んだ本の内容が、イメージとしてよみがえり拡充されることを目的とします。

 

・質問は、テキストによって異なります。その本の内容を答えやすい形式で聞きます。

たとえば、「どんな動物がいましたか?」など。

 

・今回の実践は仲のよい研究会グループ内で行ったので一人一人の質問はすぐにシェアされて、答えが満ちていきました。人によって、読む深さや着目する点が異なっていて、おもしろいです。また、他者が答えるとイメージが浮かんできてより深い読書体験ともなります。実際の本の記述や絵柄とは異なっていても、その人の記憶の中に残ったサイキックリアリティを大切にするのがいいな、と思いました。 


・学習障害をもつ児童生徒に対しての配慮など、現場で必要とする方法の工夫は必要となるでしょう。でも、絵本の絵の力を強調したり、読み聞かせによって実施する方法もあるので、読字障害を持つ子どもにも読書の楽しさを伝えることができるアプローチです。

 

・臨床心理士を対象として読書のためのアニマシオンを実施したのは、アニマドール(アニマシオンの主催者)のルールが、カウンセラーの態度と酷似しているからです。

 

・アニマドールは、自分の意見を言わず、正解や不正解を述べず、子どもの発言を受容します。作戦が一巡したらあっさり終了し、また今度、別の本で遊ぼうね、と言って時間を切り上げるところも、プレイセラピーのタイムアップと類似しています。

 

・対象者の数は、作戦の種類や選書によっても異なりますが、10人から40人くらいです。

あらかじめ読んでおくことを必要とする場合があるので、2人か3人に1冊を準備しておかなくてはいけないのが難しいところでもあります。が、学校図書館や地域図書館では、同じ本を多数そろえている場合があるので、そのリストから選書したらうまくいくでしょう。本を大切にする趣旨からも、カラーコピーして資料を作ることは避けなければならないそうです。

 

・今回は、本の内容が五感に関するものだったので、リラックスできる座り方やグループの向き合い方、お茶とお菓子の準備など、いつもの研究会とは少し異なった雰囲気を作ってみました。スクールカウンセラーや施設、あるいは小児病棟などで心理教育を担当する臨床心理士が、身に着けておくとよいスキルです。思春期に読んでおくとよい児童書などでも、実施することができます。

 

                        (発表者 記録 シジュウカラ)

文献

『みんなで楽しむ読書へのアニマシオン』黒木秀子 学事出版

『読書へのアニマシオン 75の作戦』M.M.サルト 著 宇野和美訳 柏書房

『子どもの心に本をとどける30のアニマシオン』岩辺泰吏 読書のアニマシオン研究会 かもがわ出版

『読書のアニマシオン』佐藤涼子 編 児童図書館研究会

参加者の感想


●「アニマシオン」という言葉を聞くのも初めてな状態で参加しました。大人になってから、じっくりと絵本を読むという体験は持てていなかったため、学習会で紹介された絵本の美しさや、ゆったりとした時間の流れに癒されました。児童相談所の仕事についていた頃に、学習能力には問題がないのに本を読めない児童がいることに驚いたことがあります。絵本の読み聞かせを十分に体験できていない子どもたちも多いことを実感していただけに、今回のアニマシオンの「作戦」やアニマドールの態度は臨床現場での活用範囲が広いものであると強く感じました。(ヒメ)

●私も「アニマシオン」という言葉に触れたことが初めてでした。「アニメーション」と同義語で、「アニマ(命・魂)」をふき込む・動かすという意味があるという説明に一気に引き込まれました。実際に参加し、絵本を手に持ち、ページをめくって表紙の細部まで施されている様々な工夫を皆で発見したり、振り返ること自体が本を大切にしたいという気持ちを改めて感じる機会になりました。スマートフォンやパソコン上で様々なコンテンツを楽しむことが増えている現在だからこそ、子どもたちと実際の本を使ってこのような活動を行うことに大きな意味があると感じました。また、決して評価をせずに、あくまでも「遊び」であるという点も重要なポイントであると感じました。評価をせずに、思った方向に進行がいかなくても寛容であるというアニマドールの姿勢は、参加者に不安や緊張をもたらすことなく、楽しみながら本に対する理解やイメージを深めて広げることを何よりも助けることにつながるのではないかと思いました。臨床心理士としてのあり方を改めて見つめなおす貴重な機会となりました。(まりも)